ジャズオーケストラの配置
とマイクテクニック

By クワガタ武爺

コンサートでPAからビリビリと聞こえるBig Band Jazz Orchestraの音に思わず耳を塞ぎたくなったり、客席から逃げ出したい気持ちになった事がありませんか?

生っぽい音質を求めるには…
PAを使う使わないに関係なく、一番大事な点はステージが広い状況であってもメンバー間が広がり過ぎない事です。
どのような会場であっても基本は可能な限りメンバー同士が生音で聞こえる状況を作り出すことにあります。大きな会場になるほどステージ両側の袖や天井の高さ、奥行きが広くなり音が吸収される傾向が大きくなってしまいます。またクラッシックオーケストラと同様にステージの前方に出来るだけバンドをセットする事が必要です。
他に必要以上にモニターの音量を上げ過ぎないようにしましょう。これはステージから聞えてくる生音をモニターの音が包み込んでしまう現象が生まれる為に客席には大変抜けの悪い音として届いてしまいます。

演奏時に起きる不都合

○ フォルテッシモが異常に大きくなってしまう。
○ ピアニッシモの部分なのにたいした変化が感じられない。
○ テーマや場ソロが聞えてこない。
○ ソロの音質がキンキンした音になってしまう。
○ ミュート、バケット使用時、良く客席に聞えない。
○ 木管に持ち替えたサックスセクションがバランス良く聞えない。
○ ベースの音がもけて聞える。(はっきりと聞えない)
○ バンドのドライブ(グルーヴ)感が得られない。
○ 常にどこからかハウリングの音がして止まらない。

バンドセッティングによる解決策

1. 緞帳がステージ先端からかなり内側で降りる会場では緞帳を使用しない。

2. ひなだん(山台)を高くし過ぎない。ドラム台、トランペット台で2尺(60cm)が限界。

3. ドラム台とホーンセクションの間を開けない。またドラムの位置をトランペットセクションより前にセットする。出来ればトロンボーンと並ぶのがベストです。

4. 各セクションのメンバー同士を広く開けない。持ち替え楽器があっても可能な限り狭くセットする。

5. ギター、ベースアンプの向きを客席よりバンド中心方向に向ける。

6. ソロのポジションをバンドからあまり前方に遠くセットしない。

7. ベース、ギター、キーボードアンプの音量を自分が必要とする最小限に押さえる。

8. メンバー互いが必ずアイコンタクト出来る状態(位置)をキープする。

9. ピアノの調律は本番当日必ず依頼する。(9時〜11時までに仕上げてもらう。可能であれば本番直前に再調律してもらえればベスト)


某有名ビッグバンドのステージ図面です。pdfでの拡大版はこちら


参考資料 「キーピングカウント」パイオニアレーザーディスク(ロブスター社より発売)pdfでの拡大版はこちら

コンサートスタイルでのステージレイアウトの最も典型的なセッティング例として、85年に来日したCount Basie Orch.を取り上げてみます。
残念ながらBasie御大は他界されていますが、むしろ必要以上に、映像的にピアニストがクローズアップされた配置にならず、あくまでフルバンの基本に忠実なレイアウトを見ることが出来ます。よく学生バンドや社会人バンドで、ドラムとトランペットの間からソロに出る為のスペースを開けるセッティングを見る事がありますが、Count Basie Orch.では全く隙間がない状態でレイアウトされています。近年のライブでは、フレディグリーンのサウンド的ポジションが不明確になっている為、往年のレイアウトからは変化していますが、85年の時点ではBasie存命中のレイアウトが保持されているので大変参考になると思われます。また、ドラマーとトロンボーンセクションが同列である点も重要な注目点でしょう。
特に映像面で優れている点は、カメラワークが多彩で、各プレイヤーの視線が分かり易く、フレディグリーンが健在の為、演奏中プレイヤーの視線がどこに向けられているか判断出来るので、レイアウトの重要性を認識して頂けると思います。入手可能な方は是非ご覧になって下さい。

この来日公演はBasie亡き後、ヨーロッパから急遽呼び戻されたサドジョーンズが、Basie Orch.の後継者として元気な姿を見せてくれます。ここでは指揮者でありながらも、基本的に演奏中のスタイルはメンバーに曲のポイントを指示するだけで、見事にフレディグリーンと作業の分担を実現しています。残念ながら、サドジョーンズはBasie Bandで僅か1年弱のリーダー活動の後、他界してしまいました。



モニター調整による解決策(ステージの状態が悪い時の場合)

1.プレイする上で絶対に必要なパートの音のみをオーダーする。

2.モニターの音量をプレイ可能な最小限度の音量に押さえる。

3.モニターの本数を可能な限り少なくセットする。

4.ハウリングしない程度に豊かな音質に調整してもらう。

5.ホーンセクションにはホーンセクションを返さない。

6.リズムセクションにはホーンセクションを返さない。

7.気持ち良くなり過ぎない程度にモニターの音量を下げる。生音とモニターの音が1:1で捉えるのが基本とする。

8. 会場内やステージ上でベースがもやけて聞こえる場合は一度全くゼロにしてから再調整する。 ほとんどの場合、異常に大きくなり過ぎてメンバーが麻痺している事が多い。これはバンドのヴルーヴ感の減少に直接結びついてしまいます。

9.必要でなければソリストの音をソリスト以外の各モニターに返さない。

Check 1.
コンサートだからと言って普段から慣れたバランスを敢えて壊さないように心掛ける事が重要です。モニターによって作られた環境は注文を付けた一人にはとても心地よいものですが、反面異常なモニター音量の中で、もがき苦しんでいるメンバーが必ず存在しているのです。モニターバランスはあくまで民主主義の理念に基づいて合議制で考えましょう。

マイクの使い方による解決策


1. トゥッティでは楽器をマイクに突っ込まない。

2. サックスセクションの木管持ち替え時には、口元にマイクの向きを変える。特にフルートは、音に直進性がある為にサックスのポジションのままでは音を拾い切れない。

3. 場ソロでは必ずマイクを自分の楽器のベル位置まで移動する。またはしっかりと接近する。トロンボーンのマイクが移動出来なければ、必ずオペレーターにリハーサルで持ち替えの場所の確認を取っておく。ミュート、カップ、プランジャー等の場合も同様。

4. ソリストのモニターの音質が固すぎたり、こもっていてしっくりしない場合は遠慮せず、しかし紳士的にオペレーターに再調整の要請をする。(残念ながら音量によって音質は大きく変化するので、全てのソリストが満足するには至らない場合もあります。)

5. ソリストは、必ずマイクが楽器の音が出る方向に向いているか確認してからプレイしましょう。ソリストが緊張した心理状態でマイクがあまり見えていない時は、余裕がある人がマイクの位置を直してあげて下さい。客にとって我々スタッフが飛び出して行くよりずっと自然で優しさを感じるものです。またソロが終わったプレイヤーが次のソリストの為にマイクの位置を合わせてあげるのもすてきな方法です。

6. 生音に拘った場合、音質的に一番目立ってしまうのがピアノです。ピアノもある程度音量を上げて行くと、ステージ上の音の影響を極端に受けてしまう楽器です。ピアノは置かれてある位置がドラムとベースの間に挟まれている事が多く常にこの両者の影響を受けています。ピアノソロの音を上げるとドラムトップ、ハイハットのレガートやスネアが聞こえてしまったり、ベースの低音だけがステージ上に唸り出す事があります。ピアニストが弾く音量にも大きく左右されるのですが、我々としては強く弾けばソロ、弱く弾くときはバッキングとして音量を決めます。音楽的に言ってむしろいじらない事が基本と考えています。ところがバッキングとソロが同じ音量の場合は大変困り果ててしまうのですが、可能な範囲で音量の調整をして頂くことをお願いしたいと思います。

より具体的なマイクの使い方はPA使用時の注意点をご覧ください。

Check 2.
コンサートでマイクを使用する本来の意味は"聞こえなければならない音をしっかり客席に届ける"です。生で十分聞こえる楽器でも演奏に熱が入るほどに次第に大きくなってしまうものです。解り易く説明するとマイクは楽器との距離が半分になると二乗されてPAスピーカーから出力されてしまいます。つまり、距離が2倍になれば1/4の音量に、距離が1/2になれば4倍の音量になります。

練習時からの意識改革


基本は練習の時から生の音に慣れる事から始めましょう。思いっ切り鳴っているホーンセクションに十分聞こえて来るウッドベースやピアノ、生ギターは異常であると認識して下さい。"聞こえるではなく、聞く"の意識を持つ事がダイナミックレンジの広さにつながります。聞こえなければ誰かが邪魔をしていると考える事が大切でしょう。また、アイコンタクトも重要なコミュニケーション手段の一つです。解り易い例では、カウントベイシーオーケストラの各セクションのレイアウトです。メンバーの視線や表情から理解できると思います。ビデオに残された映像から見るように、是非ギターのフレディさんのポジション、楽器の向きや弾き方が意味する事を理解し、解明して頂きたいと思います。コンマスは楽な練習方法を取るかこだわった方法を取るかでその犠牲を覚悟する事が必要です。特殊な例を除いて300人程度の会場の場合、全てが生でグルーヴ出来るように譜面には書かれているはずです。練習スタジオの中であれば、尚更この事を意識しましょう。

ロック、フュージョンなど、4ビート以外のリズムを導入したアレンジの場合
PAの存在が前提で書かれているアレンジは、そのことをしっかりと認識する事が重要です。リハーサルでは、他の曲とスタイルがなぜ違うかを、オペレーターに解り易く伝える努力を惜しまないようにしましょう。具体的に「この曲ではベースとドラム全体を各モニターに大きく返しておいて下さい」と伝えておけば、ステージ上の状態は、より変化に富んだプレイが可能になる事でしょう。また曲がインプロビゼーション的なスタイルであれば、より明確なアプローチをオペレーターに対してして欲しいと思います。
リハーサルができないまま本番に入ってしまう場合、例え、オペレーターに曲名の認識があったとしても現代風にリアレンジされていれば時すでに遅しとなってしまいます。
(例) STAN KENTON Orch."INVITATION "のオリジナル版に対して香取良彦ジャズオーケストラのアレンジ版では大きくPAのアプローチは変化しなくてはステージ上及び会場も成り立たなくなると思います。

しかし生音への拘り過ぎも考え物です。
我々にとって一番辛い状況として、会場(客席)内は生音にこだわる為に異常に小さなPAの音量でありながら、ステージ上はモニターが爆音になってしまう場合です。これは500人以上の会場、または残響が少ない会場になると、ある程度PAからバランスを取って会場内を響かせる必要があります。客席からステージに返って来る音が無い為に、演奏者は大変寂しい感じがします。
この場合、オーバーブロウになってしまうか、ステージ上のモニターで、会場の残響不足分を補いたくなってしまいます。この状況では音の純度が極端に下がって、もやもやした抜けの悪いサウンドになります。あまりに極端な拘りは自らを締め付けてしまいますので、生音への拘りも程ほどにとお伝えしたいと思います。
本来モニターに求められる目的は、冷静な判断の基準として存在していますので、カラオケのように心地よくなる為の物ではないと、ご理解して頂きたいと思います。
アマチュアビッグバンドコンサートはお客さんも大切ですが、やはり出演者が主役ですので最高の環境作りを意識してほしいと思います。

Check 3.
現在、PAはまず会場全体に伝える為の音を出す事が前提として組まれています。したがって一人の為にある家庭の高級オーディオ的な音質の再生には大変不向きです。(ミキサー席だけであれば可能ですが…)残念ながら、今のところもう少しPAの進歩を待つしかないようです。無念!!

忘れてしまいがちなのは照明担当者の存在です。
リハーサルでは、これから何曲目を演奏するのかを、マイクを通して伝えながら進行しましょう。特に照明のオペレーターは調整室に居るので、ステージ上の会話が聞こえないものです。音響、照明共にオペレーターによっては全ての演奏曲目に知識があるとは限らないので、お互いが最大限伝え合う努力を惜しまないようにしましょう。
例えBig Band Jazz を知らないオペレーターであってもかなりの水準まで到達できる事でしょう。

終わりに


生音への拘りは、我々オペレーターもビッグバンドプレイヤーも同様でありたいと思います。
しかし、感覚的に両者には大きな隔たりがあるように感じられてなりません。
理論的に解っていても現実として不可能な場合や、マニュアル化出来ないほど多くの状況が弊害にもなっています。(コンサート会場の音質、客席数、バンド編成、アレンジ、楽器の音質やその特性、コンマスのイメージと客の意識の相違、コンサートとコンテストの違い、開場して客が入った時の音質、音量の変化)数え出したらきりが無いのです。
オペレーターはバンドマスターやコンサートマスターによって決められた音量でコンサートを続けて行くのがルールですが、時に本番中客席から直接「全然聞こえない!」と怒鳴られる事があります。私はこの時ほど辛い思いをする事はありません。
だって…被害者はお客さんですから…
もう少し我々(PA屋)を信じてもらえる日が来る事を願っています。

2000.12.22.記 世紀末

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