クワガタ武爺

弊社リズムハウスが山野Big Band ContestのPAを担当させて頂きまして早10年となりました。
そこで今回あらためて参加されるバンドの方々にPAサイドから提言出来る事を整理してみようと考えます。
記述項目
1.持ち込み楽器について(ベース、キーボード、パーカッション、ドラムセット)
2.マイクの使い方
(セクション&場ソロ、ミュート使用時、SaxSection楽器の持ち替え、センターソロ)
3.キューシートに書かれた嘘(当日変更について)
4.コンテストに対する音響スタッフの基本姿勢
1.持ち込み楽器について(本番中のオペレート順で記述します)
ベース
リハーサルが無い場合、我々PAスタッフは音楽的なミキシング作業をする以前に、先ずバンドにとって危険な状況を取り除く事から作業を開始します。この危険の意味は、ライブを台無しにする可能性(要素)を含んでいる楽器をいち早く適正な状態に設定する事を意味します。全てのバンドに共通するライン楽器はベースです。我々は、最初にベースの音量を処理します。ベースは見た目は同じでも楽器内部にプリアンプを使用している物、楽器からエフェクターを通して使用している物等、さまざまですので、楽器単体の音量レベル測定とバンドサウンド時と、大きく差が生まれてしまいますので1曲目が始まってから設定をします。バランスと言うよりはバンドがサウンドする事を必要条件として音量を調整します。
キーボード
次にキーボードです。今回使用された大学は数バンドでしたが、実はこれがミキシング的に一番難問です。リハーサルがあればコミュニケーションをとる事でバランスを設定できるのですが、本番の場で打ち合わせも無しに勝手に決定しなければならないのは実に苛酷な状況です。一般に発売されており広く知られている曲であれば、一応対象曲に合わせられますが、オリジナルアレンジ物となると当方のセンスに任せられてしまうので、実は暗中模索でオペレートしています。また複数台使用する場合、それぞれの楽器のバランスは奏者に委ねてしまうので(PAサイドからは推測範囲を越えてしまう状況)慎重に組上げてきて欲しいと思います。一台だけが爆音であれば、トータルで下げてしまうしかないのです。
以上の楽器がバンドサウンドに対して破壊性を持つライン楽器です。審査員の方々にしても、この楽器が審査判断を不明確にしてしまう要因の一つとなるので、我々は技術的な意味において慎重に対処したいと考えています。また是非とも皆様のご理解とご協力をお願いしたい思います。
パーカッション
パーカッションは、セッティング図に詳しく書かれているほど、使用状況のイメージを明確に把握することができます。結果、当日ステージにて舞台担当者が、セッティング前におおよその場所(広さ)を、予め確保しておく事が出来ます。楽器が並ぶ時点で予想以上のパーカッション量となると、再度セッティングする事にもなり(Piano、Bass、Guitar、Dr.set類の移動)見栄えやステージ進行上、支障をきたします。山野楽器さんに提出されるトータルセッティング図だけでは書ききれない場合は、別途にパーカッションのみの予定セッティング図を添付される事をお勧めします。尚、この図にはマイクを書き込む必要はありません。
特に幻想的な空間の演出効果としてパーカッションを使用するバンドと、ラテン系のサウンドをメインに打ち出しているバンドでは楽器の種類、音量、使用数、セットのエリア、演奏者の人数等多くの相違点があるはずです。なるべく具体的に書き込んで下さい。ミキシングする事を考えてマイクプランを練ります。近年パーカッションの多様化を考慮すると、一概にパーカッションを含んでいるバンドを全て同様のサウンド感覚で捉えることは不可能なのは必至です。(例えばPaquito
D'rivera、Tito PuenteとBob Moses、Maria Schneiderではと考えればお分かり頂けるでしょう)
ドラムス
ドラムセットの音作りは、上記の項目を含めて、全てのバランス作り(管セクション)が終了してから、最後にやっと手を付ける事となります。今回のコンテストでは約半数のバンドが全て持ち込み、残りの8割が基本セット(ハイハット、スネア、キックペダル、幾つかのシンバル類)の組み替えでした。本来ならばサウンドチェックはドラムセットからするべきですが、曲が始まった冒頭から、審査が可能なサウンドにする為にはドラムの音作りは最後の処理となってしまいます。ドラムセット全て持ち込みの場合、本人はベストの状況であっても、PAからの出音はかなり不利な状況でしばらく耐えなくてはならなくなります。モニターも同様に、音が出てから調整していますので、状況によっては1曲分かかる場合も起こります。通常PAのドラムチューニングは山野楽器さんが用意された物で基本的に作っています。持ち込みドラムセットの状態が、山野楽器さんで御用意した楽器(特にヘッド)に比べ音質的にも劣っている場合、持ち込みドラムセットはかなりのリスクを負っていることを認識する必要があると思われます。しかし完璧にベイシーやエリントンサウンドを追求しているバンドにとって、穴開きのバスドラムは問題外でしょうし、タムのピッチの問題も時間的な状況から妥協できない点も理解できます。また「一部分を変える手間を考えたら全部持ちこんだ方が早い」と考えるのも少なからず理解できます。書いている私も実際何がベストなのか結論を出す事が出来ませんが、毎バンドづつ良い音質を追いかけなくてはならないのも現実です。ただ、PAサイドで言える事は少なくとも持ち込まれるならばドラムヘッドは最上の状態でトライしてもらいたいと思います。
2.マイクの使い方
(セクション&場ソロ、ミュート使用時、Sax Section楽器の持ち替え、センターソロ)
首都圏の学バンの皆さんには、リサイタルやジョイントコンサートで出会う度、基本的な使用法をお伝えしているのですが、残念ながら少し離れた地域で活動している方々にはゆっくりご説明する機会がありません。そこで今回のコンテストで実際問題となった部分を基に、具体的に説明したいと思います。 |
トランペットセクション
先ず、基本的にマイクは何の為にあるのかをよく知ってもらうことが、判断の基準になると思います。それは、トランペットに限らずバンド全体の中から必要とするパートを会場に聞かせる為であると考えてください。具体的に述べると、アンサンブルの中で絶対聞えなくてはならないパート、テーマ、オブリガート、その場でのソロ等です。そこでPAミキサーは、トランペットセクションに対しこのようなアプローチをしています。
トランペットセクションのマイクは、センターソロマイクと同じ音量を確保できるように設定してあります。
これにより、いつでも本人の意志に於いて好きに使う事が可能です。
PAミキサーから見て、誰がテーマで、オブリガートかを一瞬で判断するのは不可能だったり、1、2小節のトランペットチェイスを追いかけるのは作業上、間に合わない場合が多く、マイクを本人に任せるしかありません。トランペット奏者はこの状態を把握して頂きたいと思います。
それでは、意識の違いでどのような問題が発生するかを並べてみます。
以上の不具合が本番中に発生した場合、トータルでトランペットセクションの音量を下げるしかなくなります。しかしこの状態では、トゥッティの時でしかバランスは確保できなくなり必要とされるパートは、その都度こちらで上げ下げするしかありませんが、トランペットセクションのみのミキシングをしている事は出来ないので、これではバンド全体のバランスを取ることは、限りなく不可能と言わなくてはならないでしょう。
トランペットのトゥッティ時の音量は、殆どの会場ではPAを通さなくても十分聞えてきます。フルバンであれば基本的に生でバランスが取れるように譜面上に指定されています。300人以下の会場ならば殆どPAを必要とせず成り立つのは、PAがまだ確立されていない時代から存在していた音楽である証明なのです。我々PAミキサーは常にこの常識を忘れないように心掛けていたいと考えます。もしあなたがトゥッティの時に「もっとマイクに近づいて吹いて」とPAミキサーから言われたとしたら会場内はロックコンサート同様の爆音状態ってことです。
トロンボーンセクション
ホーンセクションの中で、最もPAミキサーの手腕に左右されてしまうセクションです。つまりミキサーのバランス感覚やセンスに否応無く委ねられる事です。これは楽器の持つ特性や形態にも起因するものです。他の管楽器奏者に比べトロンボーン奏者とマイクの位置は、手の届かない場所に置かれてしまうために細かい距離感を掴みづらい状況が生まれてしまう為です。
また、座ったままコントロールしなければならないのも、不安をいっそう増してしまうのは納得できますが、これは仕方の無い事(楽器の宿命)と考えてください。
やはりPA側から自然な音質や表現を可能にする為の助言としては、トランペットとほぼ同様の事が言えます。常にベルのすぐ近くにマイクをセットして演奏した場合、ハーモニー、ピッチ、タイミング、音量の差、等の悪い部分が露骨にPAから現れてしまいます。ただし同じ状態でプロのBIG BANDが演奏しているのを見ることがありますが、これは圧倒的なダイナミックレンジ(音量差)のコントロールが可能であるから出来る技なのです。PAミキサーがその都度調整していることは不可能であり、むしろそれ以上やってはいけない事と私は自覚しています。
聞えなくてはならないパートはその場で立つか、座ったままであっても、大きく吹くしか方法は無いでしょう。トロンボーンセクションはアレンジ上、内声部の充実やハーモニー、ベースラインの強調、メロディラインのオブリガートといったサウンド的に表面には出ない状況が多々あります。これがミキサーのバランス感覚からどう捉えるかがミキサーの真価を問われる点でしょう。トロンボーンプレイヤーは隣の奏者の音を聞き取れる感覚を、練習の時から掴めるように心掛けるべきと考えます。今年の山野Big Band Contestでは一部のバンドはステージのPAスタッフがその場で細かく説明しマイクのセットをしたにも拘らず、演奏する前からわざわざマイクの位置をかなりベルに近づけて演奏していました。マイクにべったり張りついて吹くアンサンブルでは、もはやBIG BANDのサウンドからは程遠いものです。当方としてはブラスロックとして把握すれば良い訳ですけれどね。当然トランペットやサックスもブリブリ出すしか手は無くなります。まぁ、このような場合は勝手にして下さいって言うのが私の本音です。
サックスセクション
トランペット,トロンボーンに比べてサックスは音が出てくる場所がいたる所に存在していますので、一本のマイクで集音する為には極端に近付き過ぎないように心掛けて頂きたいと思います。サックスの出音の特性を知るには、簡単な実験をして頂くことでよく解ると思います。これにはソプラノサックスが最も顕著に解ります。ベルから聞えてくる音は硬く、しかも高い音程の部分が強調されており、リードを通る息の音がよく聞こえてきます。逆に両手の間からは低音域がよく聞えます。これは共鳴をし易い低い音域では楽器全体から放出され、高音になるにつれてリードの直接音に委ねられてしまう、構造上の結果です。大きく軟らかい音を出そうとした時に錯覚し易いのがマイクをベルの中に入れて軽く吹けば良い音が出て来るように思いがちですが、この状態では、楽器が共鳴するまで鳴らないのでリードの音が直接出てしまいます。最も音質上高低のバランスが取れる位置はマウスピースとベルとマイクの先端を結んだ形が、正三角形になる状態がベストと言えます。
但し、バリトンサックスは楽器の構造上、ベルより20cm程度上からマイクが向いている状態にキープして下さい。ベルにあまり近すぎると、最低音域のみが強調され過ぎてしまいます。
山野Big Band Contestにおいて、当社では簡単にマイクのポジション移動が出来る為にフレキシブルタイプのマイクスタンドを使用しています。これによって即座にフルートへの持ち替えやその場での立ちソロが可能になっていますので、どうか面倒がらずに少しだけマイクの位置に注意して、音質の差などが目立たずに演奏出来るように心がけてください。
ギター、ピアノ
当社が山野Big Band Contestを手掛けるにあたって最も重要な意識とテーマを持って望んだのがアコースティックな音作りでした。これが顕著に現れるのがピアノ、ウッドベース、アコースティックギターです。
BIG BAND JAZZのギターや鍵盤楽器は、70年代から80年代にかけて大きく扱われ方が変化しました。BIG BAND
の楽器の中でもこれほど大きな変革を強いられた楽器は他には無いでしょう。そしてギターが変化すると同時に、シンセサイザーの出現がBIG
BAND SOUNDの多様化を生み出し、その後の進歩は留まる事を知らずに、BIG BAND JAZZを含む全ての音楽表現形体を大きな変革の波の中に飲み込んで行きます。気が付けば10数人のホーンセクションはたった一人のキーボード奏者によって置き換えられる事も可能になってしまいました。
ギターについては曲が書かれた年代によって使用方法が極端に違ってきますので、我々PAミキサーは曲が書かれた年代を基に、本来演奏しているオーケストラやアレンジャー名をもとに直接楽器から生の音を拾い出すのか、ギターアンプから音を拾うかを判断しています。
この判断の基準になるのが皆さんに書いて頂いているキューシートです。50年代に書かれたジャズの名曲でも現代のアレンジャーによってはファンクビートのブラスロックにする事は簡単な事なのです。リハーサルが無い状態ではキューシートが我々にとって唯一の救いとなる道標なのです。
以上の項目はコンテスト当日のセッティング中に当社スタッフが各セクションに伝えている事なのですが、緊張する場なのであまり耳に入らないかも知れません。皆さんがコンテスト出場前に予めこの項目を一読される事でより良い結果につながれば幸いです。
センターソロマイク
客席に最も近い場所であるセンターマイクの前に立つのは勇気が要ることでしょうね。
バンドの中でプレイしている時とは違い、まるで別世界に放り出されたような孤独感と緊張感を感じる方もいると思います。なるべく我々PAスタッフはソリストの不安感を排除できるように心掛けたいと考えています。
ここでは基本的なソロマイクの考え方、使い方を書きます。
人それぞれソロをする時のモニターバランスは大きな違いがあります。多くは自分の音が欲しい方と全く無い方がプレイし易い方です。プレイスタイルによってはリズムセクションすらも必要無い場合もあるので、心配な方は出場する直前にステージサイドのモニターミキサーに自分のオーダーを直接伝えて下さい。但し、ホーンセクションをモニターに返す事は予想が出来ない状況なので不可能とご承知下さい。
コンテストの場合、ミキシングをする人間にとってバンドから与えられる情報(キューシート)が唯一の目安となります。したがってオペレーターは事前に提出されたキューシートのセッティング表から可能な限り考えられる状況を想定し総合的に構成します。
まず全ての出場バンドが演奏可能な最大セッティングを組みあげます。これを基にモニターミキサー、メインミキサー、録音ミキサー用に組み直します。もちろんゲストバンドのセッティングもこれに含まれます。どのポジションのミキサーも同格ですのでお互いが作業し易い状況を検討し現場で最適なセッティングをシミュレーションします。
ミキシングに必要とされるチャネル数、ミキサー上に並べる楽器の順番等がここで決定されます。
したがってコンテストの本番中、急にセクションが増えるとなるとミキサーの楽器順序で決められた位置から程遠い場所に挿入される事になります。これでは大変作業が困難となり、的確で早急なバランス作りにはBESTを保てなくなってしまいます。しかも前もってチェックする事は不可能な為にマイクを通した音は神に祈るしかない状況になります。それでもチャンネルが余っていれば救いがあるのですが、不幸にも当日急遽増加が重なった場合ではオーダーにお答えできなくなる場合がないとは限りません。
コンテスト会場で使用されているミキサーのチャンネル数は皆さんには信じられないと思いますが約200チャンネルを超えています。急にたった一つのポジションの移動や増減で舞台裏は大騒ぎになってしまう場合がある事をどうか知っていて欲しいと思います。
特に場ソロに関しては実際オペレートしている時に誰が吹いているのか確認してから音を出したのでは客席にはソロの吹き始めは聞こえていない状態となってしまいます。それでは皆さんが努力した結果を無駄にしてしまいますので可能な限り正確に記述して頂きたいと思います。
昨年オペレートしていてキューシートの記入ミスの為に大変困った具体例
本番中オペレーターはバンドの音を調整するのが役目です。バンドの演奏中にキューシートを覗き込んでいたのではステージ上の動きに対応が遅れてしまいます。
基本的に演奏が始まった状況ではキューシートを見る余裕は無いので各大学単位で暗記しなければなりません。オペレーターは演奏される曲目からオリジナルの演奏を基に一週間ほどかけて暗記します。これは歴史の受験勉強と似ていて年代と登場人物名と事柄を丸暗記する事とかなり近い作業です。最も重視する点は場ソロや場テーマ(特に3管テーマのポジション)、オブリガート、ミュート系の有無とタイミング、ブラシワークのチェンジポイント、セクション内でのソロチェイス、ピアノ、アコースティックギターのクローズアップポイント、楽器の持ち替え部分、等々です。
昨年の状況では殆どの学バンで当日変更が本番中にあった為に技術上の部分も含めてかなりやっつけ的な仕事になってしまったのは否めません。私にとって暗記は連鎖的に記憶するので直前の変更は不可能とお考えください。昨年は大きな問題にはならなかったので幸いでしたが、スタッフ全員が毎回本番中に変更を完全に確認するのは不可能に近く、部分的な情報の欠如が致命傷になってしまう事を危惧してしまいます。当日変更に関する情報伝達手段は時間的な制約が大きな壁となってしまう為に山野楽器さんの関係者の方々とも検討中です。
出来れば私としては極力当日変更が無くなる事を願うばかりです。
我々の基本的なアプローチはコンテストであってもコンサートと同様、バンドのベストサウンド作りを考えています。
ポップス、フュージョン、ラテン、コンテンポラリー、オーソドックスな4ビートスタイル、と様々なビッグバンドジャズのスタイルがありますが、音響的に考えても全てのバンドが同じ枠の中に入り切れるものではありません。どのようなバンドスタイルであろうとミキサーの音質や音量、バランスを頑固に変化させないのはある意味コンテストにおいて公平なのかもしれませんが、それでは聞いていて決して楽しい音楽には成り得ないと考えます。むしろそのバンドが求めているサウンドに何とか近づける事がコンテストの公平性ではないかと考えています。
コンテストでオペレートする人間をはじめ音響スタッフの多くはこの山野ビッグバンドジャズコンテストの出場経験者によって構成されています。よって私達は出場者の立場でアプローチして行くことを理念として貫いて行きたいと考えています。
我々はコンテストに出場される方々が約半年〜1年間かけて積み上げてきた日々の努力に出来るだけ答えていきたいと考えています。